風邪に抗生物質(抗菌薬)は本当に効くの?どのような症状のときに処方される?

風邪は誰でもかかりうる非常に身近な病気です。しかし誤解されていることも多い病気であるとも思います。

風邪に抗生物質が処方される場合もその一つと言えます。
抗生物質の処方は一律に行うべきではなく、本来適切にその必要性を考慮した上で処方されるべきものなのですが、なかなかわかりにくいところがあると思います。

ここでは、そもそも風邪とは何なのか、抗生物質はどのような場合に効くのか、といったことについてお伝えしていきます。

風邪はウイルスが原因の症候群

風邪の定義は文献によって多少異なりますが、「のどの痛みや鼻水、咳、痰、発熱などを伴う自然軽快する感染性の症候群」を指して考えられていることが多いと思います。

風邪と診断されるこのような症状がある場合、ほとんどはウイルスが原因です。

その数は200種類以上あると考えられており、例えばライノウイルス、エンテロウイルス、アデノウイルスといったものがあり、誰もが知っているインフルエンザウイルスも風邪の症状が現れます。

風邪を引き起こすウイルスには抗生物質は効かない

では抗生物質が風邪を引き起こすウイルスに効くのかといえば、効きません。

なぜかといえば抗生物質は、細菌をやっつけるものであるからなのです。
細菌とウイルスは、一般の方からすると同じように思われるかもしれませんが、実は全然違います。

違いについては、細菌は自分で増殖していくことができますが、ウイルスは人などの細胞の中でしか増殖できないとか、細菌はウイルスよりもはるかに大きいとか、色々ありますが、日々の診療で最も重要なのは、抗生物質は基本的に「細菌」をターゲットとしたものであり、ウイルスをやっつけることはできない、ということです。

風邪はほとんどウイルス性ですから、抗生物質はほとんどの場合いらないはずです。

しかし実際には不必要に投与されていることも多く、さらに言えば、患者さんにも悪影響を及ぼす場合もあります。

例えば抗生物質は、腸の中にいる常在菌のバランスまで崩してしまい、下痢になってしまうこともあります。それだけではなく、次のような大きな問題も抱えています。

安易に飲み続けると、耐性菌ができ、抗生物質が効かなくなることも。

抗生物質は、その不適切な使用を背景として、薬剤耐性菌とそれに伴う感染症の増加が大きな課題となっています。

不適切な抗生物質使用に対してこのまま何も対策が講じられなければ、2050年には全世界で年間1000万人が薬剤耐性菌により死亡することが推定されています。

また1980年代以降、新たな抗生物質の開発は減少する一方で、病院内を中心に新たな薬剤耐性菌が増加しており、抗生物質を適正に使用しなければ、将来的に有効な抗生物質が存在しなくなることが憂慮されています。

今の段階で限りある資源である抗生物質を適正に使用することで、上記の事態を回避することが重要であり、薬剤耐性(Antimicrobial Resistance: AMR)対策として抗生物質の適正使用が必要です。

この問題に対し、日本では2016年4月に薬剤耐性対策アクションプランが閣議決定されました。これによると、2020年での抗生物質の使用量を、(2013年比として)約30%減らすことが目標に掲げられております。

安易に抗生物質を処方するのではなく、適切に病状を評価した上で、必要な方に必要な量の抗生物質を処方することが求められています。

参考:
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/poster.pdf
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000120777.pdf

抗生物質の使用は細菌感染に対処するため

では風邪のような症状の方に抗生物質を処方するのは、具体的にはどのような場合でしょうか。いくつかご紹介していきましょう。

・溶連菌感染症

第一に考えるのが溶連菌(A群溶連菌)という菌の感染症を疑う場合です。

どのような症状があれば考えるのかというと、

  • 38℃以上の発熱がある
  • 咳がない
  • 圧痛のある前頸部リンパ節の腫れ
  • 白苔(炎症によって生じる白い滲出物)を伴う扁桃の腫れ

これはCentorの基準と呼ばれるもので、これらの症状がどれくらい揃っているかで溶連菌感染症を疑い、検査や治療を行っていきます。また年齢も重要で、3~14歳であればより疑わしく、逆に45歳以上であれば可能性は下がります。この基準が絶対ではありませんが、参考にしながら診療していきます。

なお、溶連菌感染症で抗生物質を使用する目的は、(今の日本ではまれですが)リウマチ熱という全身性の炎症疾患の合併を防ぐことや、次に述べる扁桃周囲膿瘍などの広範囲の感染の合併を防ぐことや、症状を早く改善させること(約1日早く軽快すると言われています)や、伝染予防のためです。

喉頭蓋炎

のどの奥にあり、嚥下したときに飲み込んだものが気管に入っていかないようフタをする、そのフタの部分を喉頭蓋といいます。ここに炎症が起きると喉頭蓋が腫れてしまい、空気が肺に入って行きづらくなることがあり、命の危険も出てきます。

この疾患は、つばを飲み込むのも難しいほどのどが痛かったり、痛すぎて口を開くのが難しかったり、息苦しさがあったり、診察上のどの所見の割に非常に強いのどの痛みがある場合などに疑います。

この疾患を疑う場合は、耳鼻科のある病院へ紹介したり、呼吸状態が切迫している場合は救急搬送が必要な場合もあります。

扁桃周囲膿瘍

扁桃炎という言葉を聞いたことがある方は多いかもしれません。扁桃周囲膿瘍とは、扁桃やその周りに炎症が広がり、膿ができる感染症です。

この疾患も喉頭蓋炎と同じように、つばを飲み込むのも難しいほどのどが痛かったり、痛すぎて口を開くのが難しかったりすることがありますが、診察上扁桃が大きくなって口蓋垂(いわゆる「のどちんこ」)が反対側に偏位している所見がみられます。また、耳の痛みを伴うこともあります。

この疾患は重症の場合、気道狭窄のリスクがあるため、非常に注意が必要な疾患です。疑う場合は耳鼻科のある病院へ紹介したり、呼吸状態が切迫している場合は救急搬送が必要な場合もあります。

肺炎

肺炎は、肺から出てくる痰(ドロッとした濃い痰)の存在・呼吸回数の上昇(1分間に24回以上)・呼吸困難・胸部レントゲン所見などを総合的に考慮し診断します。

細菌感染による肺炎を疑えば、抗生物質を使用します。

副鼻腔炎

副鼻腔とは、頬や鼻・おでこの奥にある空洞のことで、ここに炎症があるものを副鼻腔炎といいます。

風邪をひいていたけれども、少し良くなったかな、と思っていたら、数日経ってから鼻水が悪化し、顔面の痛み(頬や歯などの痛み)が出てきた、というのが典型的な経過です。

ウイルス感染などで鼻の粘膜が腫れて鼻水の流れが悪くなり、病原体が繁殖して副鼻腔にまで炎症が及ぶと発症します。

副鼻腔炎も多くの場合ウイルス性であり、抗生物質は必要ではないです。しかし鼻水症状が現れてから7日以上続き、かつ顔面の痛みや発熱を伴う場合は細菌感染を考え抗生物質も検討します。

その他

心筋梗塞、くも膜下出血、頸動脈解離、椎骨動脈解離といった血管の病気でも、のどの痛み・首の痛みが現れることがあります。「動脈解離」は聞きなれない言葉だと思いますが、動脈の血管を構成する膜の一つが剥がれてしまうことで発症する病気です。頸部を流れる頸動脈や椎骨動脈に解離が生じたものが、頸動脈解離・椎骨動脈解離になります。

これらの血管の病気は、首の痛みが突然現れ発症することがあり、特に高血圧や糖尿病、脂質異常症などの持病をお持ちの方には、注意深く経過を聴いていく必要があります。

ここまで挙げてきた病気は、風邪の症状と似ているところがあります。そのため、診察を行う際は慎重にお話をお聴きし、抗生物質を必要とする病気が隠れていないかを考えなければいけません。

名駅ファミリアクリニックでの治療方針は?

風邪や風邪のような症状がある疾患の診療は、その病気の経過(病歴といいます)をしっかりと理解し、その実態を可能な限り明らかにしていくことが重要です。

そのため(風邪に限ったことではありませんが)当院ではお話を聴く診察(問診といいます)を重視しております

具体的には、その病気はいつから始まったのか、どのような症状があるのか、それぞれの症状の関連性はどうか、すべての病歴は一元的に説明できるのか、あるいは他の病気を合併しているのか、といったことを思い描きながら、患者さんのお話しを聴いていきます。

こんな症状のときは要注意!

また、緊急性が高い疾患が隠れている可能性がある、以下のような症状があるときは非常に注意が必要です。

  • 息を吸うときにゼーゼーする
  • 呼吸困難
  • つばを飲み込むのも難しいのどの痛み
  • 口を開くのが難しいほどののどの痛み

これらの症状は、気管支喘息の合併を考えたり、喉頭蓋炎や扁桃周囲膿瘍という緊急性の高い疾患を疑う症状であるため、すぐに病院を受診されることをお勧めします。

当院での診療をご希望の方はどうぞお気軽にご相談ください。初診・再診とも、WEB予約、またはお電話で受付を行っております。

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参考文献
豊原清臣他監修.開業医の外来小児科学第6版,南山堂,2013
山本舜悟編著.かぜ診療マニュアル第2版,日本医事新報社,2017
厚生労働省健康局結核感染症課.抗微生物薬適正使用の手引き第一版,2017
青木眞著.レジデントのための感染症診療マニュアル第3版,医学書院,2015
岸田直樹著.誰も教えてくれなかった「風邪」の診かた,医学書院,2012

筆者プロフィール

院長:田島光浩

平成19年 信州大学医学部卒業卒後臨床研修の後、平成21年より名古屋大学総合診療科後期研修プログラム(日本プライマリ・ケア連合学会家庭医療専門医後期研修認定プログラム)にて後期研修を行う。 その間、名古屋大学総合診療科、愛知県がんセンター愛知病院緩和ケア内科、名古屋掖済会病院小児科、名古屋医療センター総合内科などで勤務。平成25年日本プライマリ・ケア連合学会家庭医療専門医・指導医取得。

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