それ本当に咳喘息?間違いやすい診断と再発しにくい治療方法は?

風邪は治ったのに咳だけが続くなあ、とか、季節の変わり目になるとずっと咳が続くようになるなあ?、といったことを経験されたことがある方も多いのではないでしょうか。
そのような方は、ひょっとすると咳喘息かもしれません。

咳喘息とは、咳だけが出る喘息のことをいいます。本格的な喘息になると、喘鳴(呼吸がゼーゼー、ヒューヒューすること)が出たり、さらには息苦しさを伴うことがありますが、咳喘息は咳だけで、他には痰を少し認めることがあるくらいです。3週間以上続く咳の原因として最も多く、数か月以上続くこともあります。

多くの方を苦しめている咳喘息。
どんな症状があれば咳喘息なのか、どのような治療法があり、将来どんなことが起こりうるのか、さらには、病院でどういうことを話せばうまく自分の症状のことが伝わるのか。
このようなことを、長引く他の咳の原因についても触れながら、紹介していきたいと思います。

同じような咳でも病気によってこれだけ違いがある

そもそも咳といっても、咳喘息以外にも様々な病気に現れる症状であり、それは、咳が続く長さによって区分けされます。

咳が続いて3週間未満の咳を急性咳嗽(がいそう)3~8週間の咳を遷延性(せんえんせい)咳嗽8週間以上続く咳を慢性咳嗽と呼びます。

これらの咳のうち、3週間未満の急性咳嗽と急性咳嗽は、ウィルスをはじめとした、感染症による咳が圧倒的に多く、咳喘息とは直接関係はありません。

では、3週間以上続く遷延性・慢性咳嗽の原因においても、咳喘息以外にこれだけの症状が考えられます。

感染症

感染症による咳といっても、長引く場合は、感染後、体の中に原因微生物が全く(あるいはほぼ)ないのに続く、感染後咳嗽がほとんどです。遷延性・慢性咳嗽の11~25%を占めます。その他ごくまれですが、結核による慢性咳嗽の方もおり、とくに注意が必要です。

好酸球性気道炎症疾患

咳喘息

喘息の前段階の疾患で、喘鳴はないのですが、咳が長く続きます。詳細は後述します。

アトピー咳嗽

気道粘膜が、アレルギーでイガイガしたり、痒みがあったりして、咳が出やすくなった状態です。咳喘息と似ており、鑑別がなかなか難しい疾患です。

副鼻腔気管支症候群

頬の奥や、おでこの奥にある、副鼻腔という空洞に炎症が起きたものを副鼻腔炎といい、慢性化したものは慢性副鼻腔炎(蓄膿症)と呼ばれます。慢性副鼻腔炎と、慢性気管支炎などの下気道の疾患は合併することが多く、副鼻腔気管支症候群といい、長引く咳の原因になります。

上気道咳症候群

鼻水が後ろに垂れ、のどまで下りてくることを、後鼻漏といいます。後鼻漏が刺激になって、慢性的に咳が出る病気のことで、頻度が高いです。

たばこによるもの

喫煙での咳嗽

タバコを吸うと、それが刺激になり、咳が出ることがあります。もちろん禁煙が治療になります。

慢性閉塞性肺疾患(COPD)

COPDは、主にタバコによって気管支や肺に慢性的な炎症が生じ、その結果咳や痰などの症状が続きます。COPDによる咳の最も効果的な治療も禁煙です。

消化管の病気

胃食道逆流症(GERD)

これは胃酸が胃から食道に逆流することによって生じる、食道に炎症が生じた病気です。この疾患も咳が長く続くことがあります。

その他

薬剤性

お薬が原因で咳が続くことがあります。最も有名なものは、ACE阻害薬という、血圧を下げるお薬です。

心因性咳嗽

ストレスが原因で、慢性的な咳が続く方もいます。しかし咳の原因をストレスとする前に、慎重な鑑別診断が要求されます。

過敏性肺炎

羽毛布団や加湿器、エアコンの影響などで、原因物質を繰り返し吸い込んだ結果、アレルギー反応によって生じた肺炎のことで、咳が続くことがあります。

このように、長く続く遷延性・慢性咳嗽だけでも、実に多種多様な原因があり、咳があるからといって咳喘息であると独断で判断するのではなく、病院でしっかり見極めていくことが必要です。

咳の危険な徴候はすぐに病院へ

また、症状にこだわらず、以下の症状がある場合は、緊急性が高い疾患や重い疾患が隠れている可能性があり、自己診断にこだわらず、すぐに病院を受診することをおすすめしています。

  • 血痰を伴う
  • 声の変化を伴う
  • 体重減少を伴う
  • 呼吸困難感がある
  • 胸の痛みを伴う

咳喘息はどうやって確定診断される?

それでは、多種多様な咳の中でどのように咳喘息であると確定診断されるのでしょうか?

咳喘息とは、喘息の前段階の疾患で、喘鳴はないのですが、咳が長く続く病気です。慢性咳嗽の約30~50%と言われ、かなりの頻度を占めます。明け方や寝るときなどに症状が強くなる傾向がありますが、昼間にだけ咳がある方もいます。風邪を引いたり、冷たい空気に触れたり、運動やたばこの煙、雨や湿度の上昇、花粉や黄砂などによって症状が悪化することがあります。

日本呼吸器学会のガイドラインでは、以下の診断基準が記載されています。

以下の1, 2のすべてを満たす

  1. 喘鳴を伴わない咳嗽が、8週間(3週間)以上持続 聴診上もwheeze(笛を吹くような音)を認めない
  2. 気管支拡張薬が有効

この診断基準は非常に重要ですが、実際の臨床の現場では、経過や所見、治療効果を総合的に判断した上での診断になります。

具体的には、1. お話を聴くこと(問診)、2. 検査すること(身体診察、レントゲン等)、3.治療効果をみること、の3つの軸で考察していきます。

1. お話を聴くこと

咳が悪化するタイミング

  • 夜中や早朝に多い
  • 寒暖差や会話などで悪化
  • 季節性の有無

伴う症状

  • 鼻水や痰、喘鳴はない

2. 検査すること

身体診察

  • 胸部の聴診上、喘鳴がない

痰の検査

  • 痰の中に好酸球という、アレルギーに関わっている細胞を認める

胸部レントゲン所見

  • 咳喘息単独では、明らかな異常所見はない

3. 治療効果をみること

  • 気管支を広げる吸入薬(気管支拡張薬)が有効

以上の3つの軸で考察します。上記のような症状や所見を認める場合は、咳喘息の可能性が高くなります。

お医者さんが咳喘息であると見極めやすい特徴は?

今まで述べてきたように、長引く咳症状には様々な病気の可能性があります。
そのため、咳の原因を鑑別していくために、その病気のエピソードを詳しく教えていただくことが、咳喘息の症状であると確定するための有効な手段となるのです。

そこで、以下のポイントを参考に、経過についてお話いただけると幸いです。

  • 咳が始まった時期
  • 咳が始まったきっかけ(始まりは他の症状を伴っていなかったか)
  • 今ある症状
  • 咳が悪化するタイミング(朝起きたとき、日中、寝る前、睡眠中、会話中、運動時、食後、横になったとき)
  • 喘鳴の有無
  • 過去の同じような咳症状の有無
  • 今までのアレルギーの指摘(喘息、花粉症、アトピー等)の有無
  • 家族のアレルギーの指摘(喘息、花粉症、アトピー等)の有無
  • 今回の咳症状について、治療を受けてきたかどうか

自分で治すことはできる?

咳喘息は自然経過で良くなっていくこともありますが、治療せずに放っておいて、数か月と長い間、辛い咳症状で寝られずに苦しむ方も見かけます。

また、市販薬では吸入の気管支拡張薬を初めとした効果的な薬が(私の知る限り)なく、なかなか治療が難しいと思います。喘息に移行してしまうリスクもあり、早めの病院受診をお勧めします。

どんな治療をするのか?

咳喘息は、気道が敏感になり、収縮して細くなりやすくなっているため、気管支拡張薬という、気道を広げるお薬を使用します。その他、吸入ステロイド薬の併用や、ロイコトリエン拮抗薬という喘息のお薬を使用することもあります。

名駅ファミリアクリニックでは、即効性がありかつ長時間効果もある気管支拡張薬と、ステロイドとの両方が配合された吸入薬を使用することが多いです。早い方では治療初日で効果がありますが、もう少し時間がかかる方もいらっしゃいます。

その後治療効果をみながら、薬の追加や変更等について検討していきます。
治療を開始して症状がすぐに改善し、咳がなくなった場合、治療をいつまで続けるべきかの明確な基準はありません。

しかし治療を行っても症状が長引き、改善までに時間がかかる方の場合は、再発予防のため、長期間治療が必要になることもあります。

再発や完治はできるの?

咳喘息は、繰り返し起こることがあり、30~40%の方が喘息に移行しうる病気です。しかし、咳喘息を吸入ステロイド薬を使って治療した場合、喘息に移行しにくくなる、という報告があり、しっかり治療することが望ましいです。

また、過去の経過を考えて、ある一定の季節にだけ咳症状が続く場合、症状の生じる時期にあらかじめ治療を開始し、季節が過ぎれば治療をやめる、という治療方針もあります。しかし、経過中に通年性に移行することがあるので、注意が必要です。

参考文献
倉原優. 咳のみかた,考えかた.東京,中外医学社,2017
Pertussis infection in adolescents and adults: Clinical manifestations and diagnosis. UpToDate 19.0
Mycoplasma pneumoniae infection in adults. UpToDate 24.0
田中裕二. プライマリ・ケアの現場でもう困らない!止まらない"せき"の診かた.東京,南江堂,2016
亀井三博. 私は咳をこう診てきた.東京,南山堂,2013
日本呼吸器学会.過敏性肺炎
日本呼吸器学会.咳嗽に関するガイドライン第2版.メディカルレビュー社,2012

筆者プロフィール

院長:田島光浩

平成19年 信州大学医学部卒業卒後臨床研修の後、平成21年より名古屋大学総合診療科後期研修プログラム(日本プライマリ・ケア連合学会家庭医療専門医後期研修認定プログラム)にて後期研修を行う。 その間、名古屋大学総合診療科、愛知県がんセンター愛知病院緩和ケア内科、名古屋掖済会病院小児科、名古屋医療センター総合内科などで勤務。平成25年日本プライマリ・ケア連合学会家庭医療専門医・指導医取得。

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